3月7日に開催した学習会のまとめです。
講師の廣瀬先生は、議員や議会事務局向けの講演や著書を多数手がけられている先生です。
市議会のあり方を考える学習会
21.3.7 まちなかキャンパス
(株)地方議会総合研究所
明治大学政治経済学部 講師
廣瀬 和彦 氏
1 質問不許可の是非
(1)質問権
議員の質問権は国会議員と同様、議員個人の権利として法律上の根拠な
く当然に認められ、会議原則の一つである発言自由の原則により保護さ
れている
(2)質問の範囲
①市の一般事務について質問が可能と規定
②長岡市における官製談合事件は市の一般事務の範囲
(3)質問と議会基本条例との関係
①地方自治法、会議規則、委員会条例に違反した場合のみ懲罰の対象。
議会基本条例の制約は努力義務なので、違反しても違法でないため、懲
罰はかけられない
②議長が本来許可すべき一般質問の通告を許可しないことは、議員の発言
権を制約・侵害したとして、会議規則に違反し懲罰の対象となる恐れあ
り
(4)一般質問に対する会派からの抗議
①市の一般事務の範囲における官製談合事件について、一般質問を行うこ
とについて他の会派から抗議を受けるいわれはない
②住民代表として選ばれた議員が市政に関する問題について徹底解明を行
うのは法的に全く問題ない
(5)質問通告に対する議長許可の必要性
①質問の内容が市の事務の範囲外である場合や、個人のプライバシーや議
会の品位を傷つけるようなものである場合等に議長が質問を許可しない
②質問の人数や内容を把握し、重複質問や質問順序・質問人数の調整をす
るため
③執行機関が議長からの質問通告を受けることで、答弁準備を行うため
④官製談合に関する一般質問は上記①には該当しない
(6)官製談合に対する長岡市の対応
議員協議会で議員に対し説明及び質疑応答を行った
(7)市及び議会の対応の問題点
①官製談合のような大事件における説明や質疑を協議の場である議員協議
会で行うことはあり得ない。臨時会を招集し、市からの報告の後に緊急
質問として行うべきものである
②市が設置した委員会や内部組織では、事件の真相究明や再発防止が徹底
的に行われるかは疑問。他団体では議会が100条調査権を行使して徹底
的に解明することが一般的。長岡市議会は監視機能を十分に果たしてい
るのか疑問
(8)刑事確定訴訟記録の取り扱い
①検察官により閲覧が許可された記録が、市の事務に関する疑義解明のた
めに使用されることは当然に許される。そもそも、議会活動・議員活動
で記録内容を公開することに問題があるならば、検察官が許可しないか
公開に不適切な個所を一部非公開とする。
②刑事訴訟法及び刑事確定訴訟記録法並びに地方自治法において、議員が
訴訟記録を引用することに対し、議長が許可するかどうかの権限を有し
ていない。
③そもそも事件の当事者でない議長が刑事確定訴訟記録法6条に反する発
言があると主張する権限もない。もし、犯人に損害が生じるのであれ
ば、それは発言者である議員が最終的に責任を取ればよい。
④他の議会ではこの記録を用いた事例がある。
2 「次の質問に移る際に意見や要望を述べてはならない」との申し合わせ
(1)基本的考え方
①質問は議員が行政事務全般について、執行機関の見解を求めることであ
り、疑義をただすと同時に、自らの意見を述べることができる。
②議会運営委員会で紳士協定として申し合わせを決定し、励行を促すこと
は自由であるが、申し合わせは法律ではない。
③申し合わせに反する行動を議員がとっても法的には問題ないので、自治
法129条違反にならないため、議長の秩序保持権や議事整理権の対象と
ならない。申し合わせを守るか否かは議員の良識による。住民が良識な
しと判断すれば次の選挙で投票行動を起こすことになる。
④自治法129条
地方公共団体の議会の会議中にこの法律または会議規則に違反しその
他議場の秩序を乱す議員があるときは、議長は、これを制止し、又は
発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終わ
るまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。
⑤議会運営委員会申し合わせは法規でないため懲罰の対象外だが、問責決
議か注意勧告決議で措置されることはあり得る
(2)要望や意見の言いっぱなしで終わることの是非
①質問は答弁とセットになって効果を有するので、答弁をもらうことが原
則
②ただし、国会や県議会、市議会においても要望や意見で終わる議員は多
い。これは議員の良識に属するものであり、法律違反でないことから国
会等において注意することはできないし、していない。
(3)長岡市議会の議会運営委員会での議論
①「答弁に納得できないが時間がないので次の質問に移る」「方向性には
賛同するので速やかに実行して欲しい」なども禁止としたことはあり得
ない。これらは答弁に対する質問者の感想であると同時に、次の質問へ
続く接続的役割であって全く問題ない。
②「意見や要望で終わると執行機関の見解を確認できないのでもったいな
い」との説明については、もったいないかどうかは質問者が考えること
で、議会に強制されることではない。
(4)申し合わせの決定プロセス
①申し合わせを決定するには、原則として全会派・全議員が了承できる内
容であること(法律で認める権限を制約することから)。
②少数意見を十分に斟酌し、十分な議論を行うこと。
③反対する議員がいる場合には、客観的な理由であるかどうかを聞き取る
こと
④遵守されない申し合わせであれば、ないほうが良い場合もある。
(4)不適当な要望や意見
ある項目について一切質問していないのに、その項目について要望や意
見を述べるのは不適当。
3 長岡市議会の他の問題点
(1)R2年12月議会の会議録を見たが、再質問がほとんどない。他の議会では
一般的にはあり得ない。これは議員の調査不足。
(2)執行機関の答弁が他議会に比べてかなり短い。
(3)質問内容が計画の進捗状況や取り組み、現状の確認だけで終わっている
ものがある。
4 長岡市議会に関する新聞記事について
(1)毎日新聞の質問不許可に関する記事について
①不許可理由として議長は「元職員の改善や更生が妨げられ、名誉や生活
の平穏を侵害する」などとした。 → 個人のプライバシーにそれほど
配慮するならば、秘密会にすればよい。
②検察の取り調べで、立件された案件以外に75件もの工事で談合の疑いが
指摘されたのだから、その証拠として刑事裁判記録を引用するのは当た
り前。
③検察の捜査と議会の調査はその目的が異なるので、捜査が終了しても問
題が解明されなければ調査を行うことは当たり前。
(2)新潟日報の意見や要望で終わらない申し合わせに関する記事について
申し合わせが妥当との趣旨で見解を示した江藤教授とは懇意なので、
本人に確認したが、断片的な情報のなかでのコメントだったとのこと
だ。