日時 | 平成25年5月10日 |
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場所 | 日本経営協会 関西本部 |
用件 | NOMA行政管理講座に参加 |
地方財政の課題と制度改革への対応
(一社)日本経営協会 専任講師 山岡 洋志 氏
1 財政の現状
(1)国の財政と地方の財政
①国の財政状況 ・国の財政構造 歳出構造の問題点:義務的経費の増大=財政の硬直化 地方交付税は削減の最大のターゲット 歳入構造の問題点:5割弱という高い公債依存度 税収と歳出のギャップの推移:平成2年のバブル崩壊以降に拡大 公債残高の累増:平成24年度末見込み残高709兆円 ・国の債務 国債残高に借入金等を加えると平成24年12月末で997兆円 ②地方の財政状況 ・地方財政の構造(平成25年度地方財政計画) 歳入構造:地方税41.5%、地方交付税20.8%、国庫支出金14.5%、 地方債13.6%が4本柱で90%を占める 歳出構造:給与関係費24.1%、一般行政経費38.9%、公債費16%、 投資的経費13%が4本柱で90%を占める ・地方の債務 平成25年度末借入金見込み残高は201兆円で10年間横ばい 地方自治体は経常業務が多いので削減は大変 ・国と地方 役割分担:国民生活に係わる行政のほとんどは地方団体が担う 歳出割合は国:地方≒41:59 財源配分:所得税移譲で地方配分が厚くなった国:地方≒55:45 地方における財源の偏在が起きている(2)構造改革と地方分権
①構造改革(小泉政権から今日まで続いている) ・経済運営 規制行政(護送船団方式)から自由競争原理に基づく政策へ転換 ・小さな政府志向 財政的行き詰まりは旧来の方法では打開できない 経済活動は官僚主導では活性化しない(画一行政の終焉) ・キャッチフレーズ 官から民へ(行政経費の削減) 国から地方へ(地方分権推進) ②地方分権 ・地方への権限移譲→財源移譲(国の責任放棄という面もある) ・多様性への対応→地域実態に合った行政 ・自主的な事業運営能力の醸成→人的・組織的能力のレベルアップ→ 市町村合併→道州制? ・地方における内部矛盾 都道府県と市町村 都道府県と市町村の分配ルール 都道府県から市町村への権限移譲 都市と地方(農村) 税源移譲で潤うのは都市(東京都だけ)→地方は財政難に 地方分権の推進は国と地方を通じた行財政改革の一環(3)地方財政健全化法
①新制度の特徴は2段構えであること ・財政悪化時 早期健全化(自主的な改善努力による健全化) 財政健全化計画(議会承認と住民公表が必要)の策定と実施 ・更に悪化した場合 財政再生(国等の関与による再生) 財政再生計画の策定と実施 ②健全化判断比率等の対象となる会計 ・旧法では一般会計+一部の特別会計 ・新法では一般会計+特別会計+広域連合等+公社・三セク
2 財政の役割
(1)財政の3つの機能
①資源の適正配分(最適配分) ・資源 労働(人)、土地(もの)、資本(金)などの経済資源 ・配分先 個人、企業、政府などの経済主体 ・適正配分 最大多数の最大幸福が実現するように資源を配分する 市場メカニズムの限界を財政が補う(公共財の提供や税) ②所得再配分(高所得者から吸い上げ、低所得者に配分) ・累進課税制度:高所得者への高税率、低所得者への低税率 ・社会保障制度に使う:失業保険、生活保護、福祉政策、年金 ・その他の使い道:義務教育、低家賃(公営)住宅など ③景気調整=経済安定:政府の経済活動を景気調整に活かす ・好況時:税収を多くし、歳出を抑制 ・不況時:税収を少なくし、歳出を膨らます ・景気の自動調節装置:累進課税制度や社会保障制度は好況時・不況 時の財政の役割を自動的に果たす制度(2)国の役割と地方の役割
①国の財政の役割 ・日本全域や県境を越えた広域事業は国の所管としたほうが効率的 ・国民生活の水準が全国的に低い場合は国主導の財政運営が有効 ・大量生産、大量消費が経済の主流である時は国の財政力が必要 ・国の財政には柔軟性が強く求められる 政治的・経済的・自然的な危機状況への対応 歳入の景気弾性値は高く(景気の影響大)、応能的な税が主 ②地方財政の役割 ・住民生活に直結する行政は地方の役割 ・地方財政には安定性が強く求められる 自治体の仕事は経常的業務(止められない事業)が多い 歳入の景気弾性値は低く、応益的な税が主 ・分権が進めば、景気対策などの国が担ってきた政策を地方が担うの で、安定性から一歩踏み出す必要がある
3 地方財政制度の構造
(1)地方税制度
①三割自治 ・中央集権的財政制度のため、地方の自主性・自立性が損なわれてい るという意味 ・地方財政に占める税収割合は3割程度であったが、近年の税源移譲 で割合は上がってきた ②地方税の性格 住民生活に密接な事業を行うことから、税負担も広く薄く負担を求 め(均等割り等)、応益性の強い税制 ③地方税の構成 ・地方税収35兆円 市町村税:都道府県税=56%:44% ・市町村税20兆円のうち、固定資産税が40%、個人住民税が30% ④税源の偏在 ・歳入総額に占める地方税の割合 都道府県・市町村の6割以上が30%未満(分不相応の支出も一 要素) ・地方法人二税は地域間格差が大きく、消費税や固定資産税は格差が 小さい(人口一人当たりで比較)(2)国庫支出金制度
①国庫支出金の種類 ・国庫負担金:国と地方が共同責任を負う事業で、負担区分に応じて 国が義務的に負担 ・国庫補助金 奨励的補助金:国が必要と認める施策を推進する場合 財政援助的補助金:地方財政上、特別の必要性がある場合 ・国庫委託金:国が実施すべき事務を地方団体に委託(例:国政選挙) ②国庫支出金の問題点 ・国の地方支配:国庫支出金に依存すると、施策展開で国に追従 ・縦割り行政の弊害:省庁間の矛盾が地方で非効率を生む(例:保育 園と幼稚園、国道と並行する農道) ・三位一体改革で交付金化が拡大し、財源総額は縮小傾向(3)地方交付税制度
①制度の目的 ・財源調整機能:地方自治体間の財政力の格差解消 ・財源保障機能 マクロ:総額保障=国税5税の一定割合 ミクロ:どの団体にも必要な財源を保障 ②交付税の種類 ・普通地方交付税:財源不足団体に交付(交付税総額の94%) ・特別地方交付税:災害等の特別財政需要に交付(交付税総額の6%) ③制度の問題 交付税特別会計が膨大な借金を抱えている このうち地方負担分が33兆円(1年間の交付税総額は17兆円)(4)地方債制度
①地方債の意味:地方公共団体の資金調達のための債務で、返済が1会 計年度を越えるもの ②地方債の機能 ・財源の年度間調整 財源不足時に借金し、余裕が生じた時に返済する(逆が基金) ・世代間の負担均衡 社会資本整備のために借金し、現世代と後世代とで負担を分担 ・一般財源の補完 ・国の経済政策との調整 現在の地方債増大の要因になっている ③地方債計画 ・意義:地方債の同意基準(事業別・資金別の予定額の提示) ・関係する計画 財政投融資計画:地方公共団体は財政投融資の対象機関の一つ 地方財政計画:歳入の地方債=地方債計画の普通会計分 ④地方債の資金と借入方法 ・資金:財政融資、地方公共団体金融機構、民間、その他 ・借入方法:証書借入と債券発行 ⑤制度改革 ・平成17年度まで許可制、以降は協議制 ・許可制の意義:国全体の資金調整 ・協議制の意義:地方債の円滑な発行、財源保障、財政健全化など
4 財務管理の法制と財政分析
(1)財政分析の基礎
①普通会計:概念上の会計で、自治体の健全性はこの会計数値で判断 ・自治体の財政状況比較や地方財政全体の統計に使われる会計区分 ・個々に異なる団体別、会計別の範囲の数値を、総務省の基準で再構 成して普通会計数値を算出する(例:水道会計を一般会計に入れて いる団体もあれば、公営企業特別会計としている団体もある) ②普通会計の財源・収入・経費の区分 ・財源区分:自主・一般財源(地方税)の多いほうが望ましい 自主財源と依存財源 自前の金(地方税・負担金・使用料など)か国や県への依存 金(普通地方交付税・国庫支出金など)かの違い 一般財源と特定財源 使途が自由(地方税・普通地方交付税)か特定される(負担 金・使用料・国庫支出金など)かの違い ・収入区分:一般的には経常的収入が多いほうが望ましい 経常的収入:安定的・継続的(地方税・普通地方交付税) 臨時的収入:臨時的(特別地方交付税・地方債) ・経費区分 経常的経費と臨時的経費 継続的・恒常的(人件費・物件費・扶助費・補助費など)か、 一時的かの違いで、経常的経費の比率が大きいと財政の柔軟 性に欠ける 義務的経費と投資的経費 義務的(人件費・扶助費・公債費)か投資的(道路・施設な ど)かの違いで、義務的経費が大きいと財政が硬直化してい ることを示す ・経常的経費を経常的収入で賄って、なお余裕があることが望ましい ③形式収支・実質収支と比率(●は健全化判断比率) ・形式収支 決算における歳入-歳出で、一会計年度の現金収支。マイナスは 赤字で現金不足を表す ・実質収支:赤字の場合(その額を実質赤字額)は赤字団体と呼ぶ 形式収支から翌年度へ繰り越すべき財源を控除したもの ・実質収支比率 実質収支額÷標準財政規模(経常的一般財源の規模) ●実質赤字比率:一般会計等の赤字の程度を指標化 実質赤字額の標準財政規模に対する比率 ・財政力指数:1を超えると普通交付税の不交付団体 基準財政収入額÷基準財政需要額の過去3年の平均 ・経常収支比率 経常経費充当一般財源額÷経常一般財源総額×100 ●連結実質赤字比率:全会計の赤字・黒字を合算した赤字の程度 公営企業会計を含む当該地方公共団体の全会計を対象にした実 質赤字額又は資金不足額の標準財政規模に対する比率 ●実質公債費比率:借入金返済額の大きさを指標化し、資金繰りの 程度を示す 一般会計等が負担する元利償還金及び準元利償還金の標準財政 規模を基本とした額に対する比率 ●将来負担比率:一般会計等の借入金や将来支払う可能性のある負担 等の現時点での残額を指標化 地方公社や出資法人等に係わるものも含め、当該地方公共団体 の一般会計等が将来負担すべき負債の標準財政規模を基本と した額に対する比率 ●資金不足比率:公営企業の資金不足を、公営企業の料金収入と比較 して指標化し経営状態の悪化度合いを示す 公営企業会計ごとの資金不足額の事業規模に対する比率
5 今後の地方財政
(1)今後の地方財政の巣用課題は事業実施の効率化
①効率化を阻む要因 ・既存事業の見直しが困難 事業に関係する利害関係団体との調整が困難 公務員は既存事業に固執する傾向が強い ・国への依存心(国は「地方に依存される」ことに依存する) 道路公団改革、郵政改革も大都市を除くと反対が強かった ほとんどの地方団体が地方交付税の十全な額の確保を要望 ②効率化を促す手段 ・自由競争原理への回帰 自由競争社会=適者生存の社会(例:日本版金融ビックバン) ③効率化の限界 ・効率化:「より少ない経費で同等以上の効果を上げる」or「同じ経 費でより大きな成果を得る」 ・効率化で現在の財政状況を克服できるか疑問 抜本的に事業の組み立てを変える必要がある(2)地方自治再考
①「地方自治は住民自治と団体自治の両足で立っている」と言われる 団体自治は住民自治の上に乗っているのではないか? ②団体自治のための地方自治、住民自治なき地方自治になっていないか 地方分権は、国から地方への権限・財源の移譲で団体自治の強化に はなるが、住民自治の強化にもなるだろうか? ③「住民要望に応える」という住民自治をイメージさせる言葉 ・声の大きな住民の声が重視されすぎていないか? ・将来の住民の声、過去の人たちの声を聞いているか? 権利と義務、受益と負担の関係が住民間でアンバランスになって いるのではないか? ④国民・住民のための行政であったのか ・国と地方の財政状況に、国民や住民の不安は募る 生活の安定、福祉の増進に逆行する結果になっているのでは? 世代間の受益と負担のアンバランスも許容しがたい水準では? ・国も地方も財政破綻の説明責任を果たしていない 原因解明なしの財政再建では民主主義は弱体化する ⑤今後の地方自治において、選挙で選ばれた人の責任は重い 首長に比べて地方議員の存在感が希薄なのは問題