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「地方議会議員のための地方財政の課題と制度改革への対応」を受講

「地方議会議員のための地方財政の課題と制度改革への対応」を受講

日時平成18年4月24日から平成18年4月25日まで2日間
場所(社)日本経営協会関西本部
講師(社)日本経営協会 専任講師  山岡 洋志 氏

1 財政の現状と財政環境

(1)国の財政と地方財政:増税&行政サービス低下が不可避


①国の財政事情
 歳出構造の問題点:財政の硬直化(国債費、社会保障費、地方交付税で2/3を占める
 歳入構造の問題点:公債依存度37.6%(景気が良くなると利払い増)
②国の債務
 ・国債及び借入金813兆円。公団等の隠れ借金を入れると1500兆円
 ・元利払が○○%になったら借金禁止というルールが必要(議員立法で可能)
③国と地方の役割分担:国民生活に関連する行政のほとんどは地方団体が担っている
④地方の債務:H16末地方債残高は204兆円

(2)財政を取り巻く環境

①国内環境:低成長経済、自由競争社会(奪い合い)、少子高齢化、家庭と地域社会の崩壊(治安悪化)
②世界の環境:地球環境保護、ODA

2 三位一体改革への期待と現実

(1)三位一体改革とは


①意味
 ・国と地方との関係における税財政改革のキャッチフレーズ
 ・国が地方に向かって3つの事項(税源移譲、補助負担金削減、交付税見直し)を同時実施する改革
 ・国と地方、双方同時の抜本的なリストラによる財政破綻回避策
②地方の期待と現実:地方にとって三位一体改革は極めて厳しいもの。後年の交付税措置は期待薄(財政破綻団体が検討されているくらい)

(2)地方における内部矛盾

①都道府県と市町村
 ・都道府県を市町村の分配ルール:移譲された税源の配分(総枠は削減)
 ・都道府県から市町村への権限委譲:国と地方の関係の相似形
 ・政令市、中核市、特例市の増加:市の権限と財源が拡大 → 道州制
②都市と地方:東京都問題(税源移譲で潤うのは東京都だけ)

3 財政の役割

(1)財政の3つの役割


①資源の適正配分
 ・資源:労働(人)、土地(モノ)、資本(金)などの経済資源
 ・配分先:個人、企業、政府などの経済主体
 ・適正配分:最大多数の最大幸福が実現するように配分するが、市場機能で補えない部分を財政が果たす(例:公共財の提供)
②所得再配分:高所得者から吸い上げ、低所得者に配分(累進課税制度、社会保障制度)
③景気調整:日本の失敗は好況時の引き締めを行わなかったこと
 ・好況時:税収を多くし、歳出を抑制(市場からの資金吸収)
 ・不況時:税収を少なくし、歳出を膨らます(有効需要の拡大)

(2)国の役割と地方の役割:財政の役割は「国民生活の安定と福祉向上」

①国の財政の役割:高度成長期までは国主導の財政運営が有効だったが、ナショナル・ミニマム達成後は水準維持に止めるべき
 ・国の財政には柔軟性が求められる(応能的な税を中心にすべき)
②地方財政の役割:住民生活に直結する経常的な仕事
 ・地方財政には安定性が求められる(応益的な税を中心にすべき)

4 地方財政制度の構造

(1)地方税制度


①三割自治:中央集権的な行財政制度のため、地方自治(自主性・自立性)が損なわれている状態を示す言葉
②地方税の性格:広く薄い負担、応益性の強い税制
③地方分権と税制
 ・税源移譲:所得税から住民税への移譲を検討中
 ・税制改革:外形標準課税(法人事業税で導入)
 ・課税自主権の強化:地方自治体が法定外税を独自に創設できる

(2)国庫支出金制度:三位一体改革では国庫補助負担金と呼び、改善中

①国庫支出金の種類:国庫負担金、国庫補助金、国庫委託金
②国庫支出金の問題点:国の地方支配、縦割り行政の弊害

(3)地方交付税制度

①目的:財源調整機能、財源保障機能により地方自治の本旨と地方団体の独立性を強化
②地方交付税の性格:国が徴収する地方税、地方の一般財源、国・地方の税源配分の補完
③地方交付税の種類
 ・普通地方交付税:財源不足団体に交付(交付税額の94%)
 ・特別地方交付税:普通交付税で捕捉されない特別の財政需要に交付
④制度の問題:交付税特会が膨大な借金を抱える(53兆円)

(4)地方債制度

①機能:財政の年度間調整、世代間の負担均衡、一般財源の補完、国の経済政策との調整
②制度改革:許可制から協議制へ(財政力のない団体の資金調達原価が高まる)

5 今後の地方財政

(1)財政運営の効率化


①効率運営が必要な理由
 ・政策の転換:護送船団型政策から自由競争政策へ
 ・分権推進と財政危機:国への依存心を断ち切らなくてはならない
②国と地方の思惑
 ・国の思惑:制度改革を強調(地方財源総額の圧縮と自主性の強調)
 ・地方の思惑:地方交付税制度の温存
 ・財源の三位一体の前に、権限・財源・人の三位一体を考えるべき(人を残したまま権限・財源を手放すことはできない)

(2)住民自治と団体自治

・現在の財政状況は、「住民のための行政」ではなく「行政のための住民」であったことを示している
・国はプライマリーバランスを達成しても、巨大な利払い機関であることに変わりなし
・地方自治は民主主義の学校:サイレント・マジョリティの声が軽視されていないか。特に将来の住民の声は心がなくては聞けない。この国を造ってきた過去の人々の声も同じ。
・今後の地方自治では選挙で選ばれた人の責任が重い:長に比べ議員の存在感が希薄になっている

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