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脱物質経済の実現に向けた産業活動

脱物質経済の実現に向けた産業活動

1月24日に東京大学 国際・産学共同研究センター 教授  山本 良一氏の講演が長岡市で行われた。講演要旨は以下の通り。

・日本のGDPは5.3兆ドルである。2%の経済成長を実現しようとすると、1000億ドルの新しい市場を創出しなくてはならず、新たな消費資源量が5000万トン増加する。
地球は、有限であるからこのままでは破綻。

・世界で起こっている環境変化。1日(24時間)で熱帯雨林は55,000ha消失、農耕地は20,000ha減少、生物種は100~200種が絶滅、二酸化炭素は6,000万トン放出、21万人の人口増加。
年間8,000万人の人口増加に対応するには、食糧生産のために利根川の年間流量の5倍の水が必要(毎年、利根川が5本ずつ増えなくてはならない)。これは無理。

・砂漠化の進行。中国では砂漠が年間3.4km北京に接近している。このままでは30年程で北京は砂漠。黄沙による被害も増大。 
近年、韓国では中国からの黄沙により人的、社会的な被害が急増しているとの報道有り(関 談)。

・温暖化のため世界各地で氷の融解が進んでいる。IPCCの報告では地球の平均気温が次の100年間で最大5.8℃上昇と予測しているが、これは地球全体の平均である。北半球は陸地が多いため、この倍くらいは上昇する。
また、温暖化により異常気象災害が頻発している。日本では1時間に100ミリ以上の集中豪雨が、1995年には1回であったのに対し1999年は10回である。保険会社の統計によると、異常気象に対する保険支払い回数は、1960年代と1990年代を比べると14倍になっている。異常気象による世界の経済的損失がこのまま毎年10%程度として、世界の経済成長が年率3%とすると2065年前後に世界は破産する。

・2010年までに日本で食糧危機が起こる可能性がある。ちなみに、北朝鮮をはじめとした飢餓が問題になっている国でも食料自給率は60~70%だそうだ。日本の食料自給率は30%。日本の食料危機は、日本の穀物輸入量の半分を占めるアメリカで、10年以内に異常気象により食糧生産が大打撃を受けることから始まる。

・現在の人類は地球生態系の再生・処理能力を約40%オーバーしている。例えるならば、昔は貯金の利子で生活していたが、贅沢をしすぎたため、今は元金を取り崩しているようなもの。これでは近いうちに破産。

・これらの事から、資源・エネルギー使用量の削減が不可欠。しかし世界人口の20%でしかない先進国が世界の資源の80%を使用している(世界人口の20%の先進国が人類の二酸化炭素排出量の50%を占める)ことから、世界一律に資源・エネルギーの削減をするには、不公平が生じる。永続可能な社会にするには先進国と発展途上国の生活を同レベルにする必要がある。そのために脱物質・サービス経済の実現が必要。例えばスウェーデンの家電メーカーは洗濯機の販売をやめ、洗濯機を無料で貸し出し、洗濯時間に応じて洗濯料金を徴収する事をはじめた。それによって、消費者はなるべく効率的な洗濯をするようになるし、メーカーは古くなった洗濯機の回収とリサイクルが100%実施する事ができる。また、アメリカのカーペットメーカーは環境問題を解決しないと自社の存在もありえないことに気付き、考えた結果、「我が社はカーペットを売るべきでない」という結論に達し、カーペットをリースし古くなったものは回収しリサイクルする事をはじめている。

・今後の対策として、グリーン購入によるエコ商品市場の創出、グリーン投資(エコファンド)推進のための税制上の優遇、環境税や補助金による社会制度の変革、が有効。これらの戦略によって持続可能な社会の実現(人類の破滅を避けられる)は可能であるが、問題は残された時間が僅かであるということ。