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グローカル座標塾を受講

グローカル座標塾を受講

日時平成21年1月23日
場所文京シビックホール(東京都文京区)
用件グローカル座標塾を受講

生存権 ―― 「生きさせろ」と社会保障制度改革

ピープルズプラン研究所 白川 真澄 氏
1 生存と自由
派遣切りにあう人は、今年3月までの半年間で3万人と言われていたが、少なくとも8万5千人と言われている。更に4月以降も派遣労働者の解雇が続くとみられている。非正規雇用が雇用全体の1/3以上
この5年間で凍死した人は400人、年平均80人。餓死する人も同程度
派遣労働者はほとんど失業手当てを受け取れない
生活保護は生存権保障の最後の拠り所。受給者は増えているが、その数はワーキングプア(3人世帯で年収200万円という貧困ライン以下の人々)の1/4程度にすぎず、申請しても受けられない人が多い
2 社会保障制度とは何か
(1)「顔を知らない者」同士の社会的連帯の仕組み
日本国憲法では「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」と生存権を規定している。そして、生存権は社会保障制度によって保障される
人間は誰でもリスク(不確実な危険)を背負っている。リスクとは、事故、火災、病気、失業などの危険
リスクへの二つの対応
  • 個人が貯蓄などを行い、自己責任(自助)によって対応する方法で、所得が高いか、資産がある人間に限られる。(新自由主義に則った小泉改革)
  • 皆が助け合って共同して対応する(リスクシェアリング=保険制度)
社会保障制度は、社会保険制度と所得再分配制度(国民全員を強制加入させる制度)から成り立っている
社会保障制度は、人々の生存権を保障し、人々が多様な生き方・働き方を実現する基礎となる
(2)社会保険制度
保険制度(リスク・シェアリング)はリスクに対し、各人が資金(保険料)を拠出してプールし、集団で備える仕組み
二つの保険
  • 民間保険:リスク比例保険料方式で自己負担に近い。応益原則
  • 社会保険:平均保険料方式で強制加入。応能原則
(3)所得再分配
高所得者に累進所得税を課して富裕な人々から多くの税をとり、貧困者への公的扶助だけでなく、医療・介護・年金・教育・保育などのサービスを提供する
公的扶助(日本では生活保護)制度は、収入がなかったり生活できない所得しか得られない貧困者に対し、税金を使って援助したり保護を与える制度である
(4)社会保険方式と税方式
運用方法
  • 社会保険方式では、保険料を払わない人は給付を受けられない(年金、医療、介護、失業手当など)
  • 税方式では、税金を納めない人でもサービスや現金給付を受けることができる(生活保護、教育、保育など)
3 福祉国家にならなかった日本
第二次世界大戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、産業インフラ整備(公共事業投資)に財政を重点的に投入した。1970年の対GDP比の政府固定資本形成を見ると、軍事国家のアメリカ、福祉国家のヨーロッパ、企業(土建)国家の日本と特徴づけられる
社会保障制度の確立を先延ばしできたのは、福祉を家族(子による親の扶養や介護)と企業(社宅などの企業内福利厚生)に依存できたから
日本は福祉国家に成熟することなしに、新自由主義の福祉国家批判(企業の競争力重視)に同調し、社会保障費を抑制する行財政改革路線に転換していった(1981)。
4 小泉「構造改革」と社会保障制度の縮小
少子高齢化に伴い、社会保障給付が’04年86兆円から20年後に152兆円に膨らむ予測をもとに、自己負担や保険料の引き上げを行った。
医療制度改革:サラリーマンの窓口負担2割→3割。70歳以上の高齢者の自己負担が定額→1割。長期入院患者の食住費→自己負担。高額医療費の自己負担限度額引き上げ。後期高齢者医療制度導入
年金制度改革:高齢者への給付額を引き下げる保険料固定方式への転換と、保険料率の段階的引き上げ
介護保険改革:軽い要介護認定度者へのサービス打ち切り、施設入所者の食住費を自己負担、介護保険料負担増
障害者自立支援法:応能負担→応益負担(日本だけと言われている)
5 社会保障制度の危機
医療分野の危機
  • 医療サービスの供給不足:医師数抑制政策による医師不足、地方交付税削減や財政健全化法による公立病院の縮小・閉鎖
  • 医療を受けられない人の急増:国民健康保険証の取り上げが増加
高齢者介護の危機:介護サービスの担い手不足(最も高い離職率)
  • 全労働者平均の7割という低い賃金と過酷な労働
  • 介護保険から支払われる介護報酬が低く抑えられてきた
年金の危機:公的年金制度そのものへの信頼低下
  • 年金保険料未払い者の急増
  • 基礎年金の給付額は生活保護を下回っていて、最低生活保障の機能を果たしていない
  • 非正規雇用者で、厚生年金に加入できない人が多数いる
雇用保障の危機:非正規雇用労働者の生存権を守る仕組みがない
  • 雇用保険の条件「週20時間以上働き、1年以上の雇用継続の見込み」に合致しない非正規雇用労働者が大半
  • 自己都合退職は会社に有利(国からの助成金を受けられる)で、労働者に不利(雇用保険の資格や給付が厳しくなる)なので、自己都合を強要される
6 消費税引き上げ議論
(1)日本の国民負担率は40%と国際的に低い。新自由主義の目指す「低福祉・低負担社会」から「高福祉・高負担社会」への転換が必要:負担を増やすか増やさないかの選択ではなく、共同の負担を増やすのか自己負担を増やすのかという選択である
(2)消費税アップの前に行うべきステップ
個人所得税の累進性強化(最高税率70%が現行は40%)
相続税強化(70%に戻す)
証券優遇課税の撤廃
ガソリン税などのエネルギー課税を維持したまま環境税に組み替え、社会保障費に向ける
法人税の引き下げは行わず、大企業への課税優遇措置をやめる
最大のムダである軍事費削減
消費税引き上げの場合は、食品など日常用品を除外する